Life Impressions

日々遊んでるゲームの感想をちゃんとアーカイブ化したかったのでブログやってみます。ゲーム以外の感想も書くかも。

「聖地には蜘蛛が巣を張る」感想

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アリ・アバッシ監督「聖地には蜘蛛が巣を張る」みてきた。

※ネタバレどうこうという映画でもないと思うけど結末まで普通に書くので注意

 

イランで実際に起きた連続娼婦殺人事件を題材にした映画。

イランの聖地マシュハドでサイード・ハナイという一人の男が16人の女性を殺害し遺棄した事件。「街の浄化のためだった」と主張する犯人を地元の人々は英雄視し、模倣犯も出たらしい。

 

題材が題材なのでめちゃくちゃ女が暴力を受けたり殺害されたりするシーンが続く。苦手な人は厳しいかも。この辺、もうちょい直接的な描写を避けても十分事件のひどさは伝わるかなとは思った。

強烈な女性蔑視が根付く現実社会の恐怖を描いているので、事件の犯人は捕まりはするけどカタルシスとかも一切ない。

 

子供の無邪気さや素直さを逆手にとった意地の悪いラストシーンはアリ・アバッシ流だなあと思うけど(まあ犯人の息子が「父は正しい!」みたいなテンションなのは残念なことに本当にそうなんですが…)

この映画のなにが鬱かというと、描かれる女性差別のあり方に何一つ驚きがないというかむしろ既視感しかないところ。

映画には、この連続殺人事件を熱心に追う女性ジャーナリストが出てくるんだけど、未婚の女の一人行動だからという理由でホテルを追い出されそうになったり上司や地元警察から大小様々な嫌がらせ・セクハラに遭う。

程度の違いはあれど全て日本社会でも地続きのリアルさで共感できることばかり。

「娼婦」をやってた女性被害者に対する警察・地域社会の冷淡さや憎悪も全く新鮮さを感じない。

犯人の男が慢性的に抱える「俺はもっと活躍のチャンスがあった筈なのにこんなさえない生活に甘んじてる」みたいな不満も、その鬱憤が「正しくない女を罰することで権威が回復できるかもしれない、なにかの帳尻が合わせられるかもしれない」という方向にいくのも、陳腐なほどに「あるある」だ。

一応犯人は「神の意思に従っただけ」みたいなことも言うのでイスラム教の影響を全く描いてない訳でもないんだけど、別にイスラム教があるから男尊女卑があるというより、男尊女卑がまずそこにあってその正当化に(この地域では)イスラム教が使われているというだけのことなので結構どうでもいい。

ラストで犯人の息子が、まるでおままごとの様に幼い妹に被害者役を頼んで誇らしげに父親の犯行の様子を実演してみせるシーンは悪趣味過ぎると感じる人もいるかもしれないけど、ただ単に順当というかもっともなことだと自分は思った。

女性蔑視というのは、素朴で善良な人々が各家庭で連綿と受け継ぐ伝統であり、日常の生活に根差した文化だから。

 

そのことに対してちゃんとしっかり一旦絶望しようよね?という映画なんだと思う。